7月3日、私と夫は入院の準備をして病院へ行った。
昼過ぎに入院ということだったのに
夕方になってもほったらかしにされて
私たちは所在無く新生児室の前をうろついていた。
新生児室には生まれたばかりの赤ちゃんが寝かされていて
ひとりの男性がガラス越しに生まれたばかりの子供を眺めていた。
話を聞いてみると、男性の奥さんは
3日前に前駆陣痛で病院に駆けつけたけれど家に帰され
陣痛で入院した後は微弱陣痛になってしまってなかなか生まれず
3日間も痛みに耐えて、やっと出産したと言うのだ。
これから生もうという私にとっては
なんとも恐ろしい話だった。
外が暗くなった頃、ようやく診察室に呼ばれ、入院となった。
子宮口はまったく開いていないそうだ。
私は入院したらすぐに陣痛促進剤を点滴で入れて
そのまま出産となるだろうと考えていたけれど
まずは「バルーン」を入れて一晩過ごして下さい、と言われた。
「バルーン」を子宮口から入れ、
中に水を入れて膨らますことで子宮口を物理的に開いてやることと
刺激を与えて自然な陣痛を促すことが目的らしい。
説明を聞いた時は「ふーん」としか思わなかったけれど
実際に入れる段階になったら「ぎゃー!!」と叫ぶほど痛かった。
胎児は快適な子宮の中に変なものを突っ込まれたので
怒って足をつっぱり、バルーンに頭突きを食らわしていた。
バルーンが思うように入らず医師がやたらと汗をかいて「ごめんねー」を連発。
終わった後にグッタリする私に向かって付き添っていた看護師さんが
「長かったね〜。痛かったでしょ」と微笑みかけた。
夫は、出産は明日になると聞いて
「じゃ、明日来るから。何かあったら携帯に電話して」
と言い残して帰って行った。
私は陣痛室のベッドに横になり、目を瞑った。
明日はお腹の子供に会えるのかと思うとワクワクしたし
明日はいよいよ陣痛と出産を初体験するのかと思うと
恐ろしくてドキドキした。
夜9時過ぎになり、なんだか変だ、と思った。
お腹がやけに張る。
しかも規則的に。
「陣痛だ」
私は枕元に置いた時計をにらみ感覚を計った。
5分、4分、3分と感覚が短くなってくる。
どうやらバルーンが功を奏し陣痛が来たようだ。
母親学級でもらった出産の進行の載っている冊子を引っ張り出した。
そこには、初産の場合は陣痛が3分間隔になってから
5〜10時間後に次のステップへ進める、と書いてあった。
5時間もこんなのに耐えなきゃならないのかと思うと
気が遠くなって目の前が真っ暗になった。